2023年5月 映画鑑賞記

比嘉ブラック社長

2023年05月12日 09:04

1.「オットーという男」2023年/アメリカ
原作はスウェーデンの小説。後に映画化され、主役のトム・ハンクスが製作を兼ねてリメイク。
ある郊外の住宅団地。オットーは若い頃 教師の妻とここに住宅を買い、住み続けて長い。勤めていた会社も定年退職したばかり。毎日近所をパトロールして、ゴミの分別や駐車の仕方を注意する。何しろ曲がったことが大嫌い。しかし、彼は妻をガンで亡くし生きる希望を失い自殺を図るが、そんな時に向かいにメキシコ人家族が越してくる。妻のユリソルたるやお節介でまぁよく喋る。車は運転できず、第3子を出産前に夫婦で外食するからと、女の子二人のベビーシッター迄オットーに押し付ける始末。ユリソルのせい(?)で、何度かの自殺に失敗するが、そんな或る日、この団地で若い頃から近所付き合いをしていた黒人夫妻が、開発元の不動産業者に追い出される事を知り、オットーが動く。自分を写すバカ者と罵ったSNSの力を借りるとは現代風だ。
最後は泣ける。
トム・ハンクスとユリソル役のメキシコ人女優がいい。
★★★★

2.「メモリー」2023年/アメリカ
アルツハイマー病が進行して、記憶を失っていく完璧な殺し屋アレックスを演ずるのは、リーアム・ニーソン。この人70代だが動きが速い。
物語の舞台は、メキシコ国境に隣接するテキサス州エルパソ。病気の進行を自覚して、引退を決意したアレックスだが、最後の仕事として二人の殺しを引き受ける。ひとりは弁護士。手際よく仕事を終え、二人目の実行に向かうと、何と相手は少女。己の信義に反するとアレックスはそのまま立ち去る。ところが翌日その子が何者かに殺されたことをTVニュースで知る。その裏には、子ども達の人身売買が絡み、それを追うFBI、地元警察にマフィアに、黒幕の女大富豪。
テンポの速いサスペンス。
リーアム・ニーソンの映画は外れがない。
★★★★

3.「聖地には蜘蛛が巣を張る」2022年/デンマーク
監督はイラン人のアリ・アッバシ。主演女優はフランスに亡命したザーラ・アミール・エブラヒミ。2001年に起きた16人殺しの実話を元にした作品。勿論今のイランでこの映画が創れるワケがない。
舞台はテヘランに次ぐ人口300万人のイラン第2の都市マシュハド。ここはイスラム教シーア派の聖地である。貧しくシングルマザーの女達は、子供を寝かしつけ夜の通りに立つ。その数200人というから、イスラム教でシングルマザーがどんなに悲惨な立場にあるか驚きである。
そこに、バイクの男に声をかけられ後に乗っていく・・・。新聞は”スパイダー・キラー”
と書き立て、一部の市民からは、娼婦を殺すことが聖地の浄化だと英雄扱いの風潮もある。女性ジャーナリストのラヒミは ひとり事件を調査するが、警察も裁判所も協力するどころか、聖地マシュハドで女が調査に動くことを警告する・・・。しかし、16人目の犠牲者のあと、ラミヒは己自身が街婦に扮し囚となり、犯人の自宅に連れて行かれるが、危機一髪で逃げる。実話である。
ここで映画が終わるなら未だ救われる。しかし、映画はこの後も続く。インタビューで妻は、夫は神の下正しいことをしたのだと誇る。息子は、ひょっとすると父の後を継ぐかもしれないと、父から教わった殺しの手順を、小さな妹を前に実演する・・・。ぞっとする宗教国家の恐ろしさ・・・。ボクがロンドンのサウスケンジントンの駅の近くのレストンランでシェフをしていた1974年の夏か秋の或る夜 、パルバネが店を訪ねてきた。テヘランに帰るから挨拶に来たのだと、テヘランの自宅住所を書いたメモを受け取った。当時、イランはアメリカと仲の良いパーレビ国王時代で、ホメイニ師はパリに亡命していて、その後革命を起こす。オシャレで品の良い服を着けていたパルバネの父は医者で裕福な医師の家と聞いた。
あれから約50年。イランのニュースが出るとパルバネを想い出す。ところで、この映画の原題
「Holy Spider」。日本の配給会社の広告マンはセンスがある。最近では珍しく題名がピッたり。
★★★★

関連記事